「生き方」・「働き方」に関する書籍はついつい読んでしまいます。
働き方研究家の西村佳哲(にしむらよしあき)さんの『自分の仕事をつくる』は、「仕事の質」について考えていた私が目からウロコの発見をさせてくれたバイブルといえる1冊です。
「こんなもんでいいでしょ」に囲まれる暮らし
『自分の仕事をつくる』は、パタゴニア社、柳宗理(やなぎそうり:インダストリアルデザイナー)、ヨーガン・レール(ファッション・デザイナー)のインタビューをまとめた本です。
この本で読むべきなのは、「まえがき」の、「こんな仕事に囲まれていいの?」という西村さんの問題提起です。
カラーボックスのような本棚。化粧板の仕上げは側面まで、裏面はベニア貼りの彼らは、「裏は見えないからいいでしょ?というメッセージを、語るともなく語っている。
(中略)それをつくった人たちの「こんなもんでいいでしょ?」という腹のうちを伝える。
p009 まえがき
カラーボックスだけではなく、100均の食器を手に取るたびに感じていた「なんか使いにくい」、持ちにくい、口当たりがよくない」とうっすら感じていたこと、洗濯したとたんに型くずれしていまうファストファッションのTシャツに感じていたこと。
「安いんだから仕方がない」となかば諦めて自分に言い聞かせていることがすごく居心地悪かった。それがこの一節にみごとに言語化されてて、驚きました。
様々な仕事が「こんなもんでいいでしょ」という、人を軽くあつかったメッセージを体現している。
p010 まえがき
「目の前の机も、その上のコップも、耳に届く音楽も、ペンも紙も、すべて誰かがつくったもの」。
「あなたにはこんな価値しかないのよ」ささやきかけてくるモノに囲まれて、暮らしているのだとすると、どうでしょう。
「こんなもんでいい」と思いながら作られたものは、それを手にする人の存在を否定する。人々が自分の仕事を通して、自身を傷つけて目に見えないボディブローをきかせ合う悪循環が、長く重ねられている気がしてならない。
モノがたくさんあっても豊かさを感じられない原因はこんなところにあるのではないか、と西村さんは問いかけます。
ていねいに時間と心がかけられた仕事がある
「一方で」、「ていねいに時間と心がかけられた仕事がある」と続きます。
素材の旨味を引き出そうと、手間を惜しまずつくられる料理。表には見えない細部にまで手の入った工芸品。一流のスポーツ選手による素晴らしいプレイに、「こんなもんで」という力の出し惜しみはない。
このような仕事に触れる時、私たちは嬉しそうな表情をする。なぜ嬉しいのだろう。
人間は「あなたは大切な存在で、生きている価値がある」というメッセージを、つねに探し求めている生き物だと思う。
p010まえがき
「他人の仕事」でつくられたモノから、つくった人の思いが伝わってくるという発想は、実感として納得がいくものでした。
「こんなもんでいい」モノたちが、「安いからいい」という価値観でどんどん広がっていき、手にする私たちの存在を否定し、心がすさんでいくような気がしていたからです。
一人ひとりの仕事が変わっていくことで、世界が変わるのではないか。